「また前田のやつ赤点だって?」
ちょっと感心したようにそう呟いたのは、早々に弁当を食べ終え食後の一服を決め込もうとしている政宗であった。
「昔は俺が家庭教師をしてやっていたんだが、今はそういう訳にもいかぬからな」
政宗にとっては浅井(鬼)のいぬ間に・・・という気分であったのだが、そんな思惑も虚しく、火を着ける前にひょいと没収される。
いつの間に食べ終えたやら、お茶を片手に伸びる秀吉の手だ。
「いいじゃねえか一本くらいよ。」
「何を言っておるか。ここは学校でお前は未成年で、しかも俺は担任だぞ。」
「教育実習生なんだし、見て見ぬフリ有り有り!」
「そうだな・・・」
わざとらしく膨れる政宗の頭を押さえ軽く笑うと、おおダメ元で成功か!みたいな輝いた目に出会う。
わざわざ自分の目の前で吸おうとするのだから、このような展開は目に見えていた筈なのに。
「口寂しいのか、政宗」
「え」
「ならこれだな、飴をやろう。」
一瞬どきりとした政宗を知ってか知らずか、古風にも程があるぐるぐる巻きの飴を懐から取り出す秀吉。
黄色とピンクのそのぐるぐるを凝視しながら、政宗は唖然とするしかなかった。いまどきどこに売ってんのそれ。
「ここでその台詞で・・・飴ってお前・・・キャンディーってお前・・・」
思いっきりどっかの赤点野郎のイメージカラーをしたその飴を前田ごと叩き割りたい衝動に駆られたが、寸でのところで気力が足りなかった。
懐のコルトパイソンが火を噴くところだったぜ。
「どうした?」
優しく問いかけるその口調は、わかっていてやっているのか、それとも本当にわかっていないのか毎度判別がつかなくて困る。
これで色々と意地悪をされているのだとすれば、相当の役者だとは思うが、まあどちらであっても悪い気がしないと思えてしまうのが一番問題か。
「なんでもねーよ馬鹿猿」
「色が気に食わなかったか馬鹿竜?」
なんだか悔しくてどうでもいい悪態をつきながら受け取らざるを得なかった飴を齧ると、間髪居れずにオウム返されて溶けた汁を吹き出しかける。
危ないベタベタになるところだった。
「着色料の配色ぐらいでいちいち不機嫌になるほどガキじゃねえわぁ!」
「なんだなんだそんなに怒るな」
ああむかつく。
なんだその微笑ましいみたいな笑顔は、宥めるように頭を撫でるその手は。
むかつくむかつく、何が一番むかつくって、完全無欠のカリスマ的存在だった俺の調子をかき回すこいつの全てが憎らしい。
「口寂しかったんだろう?」
「お前はわかってない」
「そうか?」
「でもま、馬鹿と朴念児は死ななきゃ治らないって言うしなー」
「ほお、それなら俺はどっちだ。馬鹿か、朴念児か。」
元々子供用に作られているキャンディーなんてやすやす噛み砕けるもので、はじめっから舐めてなどいなかった。
ペロペロキャンディーとかなんとかいいながら、実際俺の口からはバリバリしか聞こえない。つまりあれだな、バリバリキャンディー。
あ、ありそう。
「・・・どっちもじゃねえの・・・」
正直、何が起こったのかわからなかったが、これから噛みしめて飲み込む予定の飴の破片があっさりと溶けてしまったのだけは理解できた。
それ以下は理解していいものなのかどうなのか。
秋だというのに妙に熱くてまともに思考が回らず、必死のさり気なさを装って顔を背ける。
どうしてこんなに至近距離に秀吉がいるのかなんて、そんなことはもう論議の段階を逸脱していて苛烈でしかない、間違えた瑣末でしかない。
「砂糖の味しかしないな」
「合成着色料に味なんてあるかよ、後付けペロペロって奴」
「政宗」
「・・・おう」
無理やり顔を正面に直されてしまえば、抵抗する気力などない。
身体に力は入らない、食べた後は眠くなるというが、きっとそれだろう。
だから今回の一件は、口寂しいのだろう?なんて、ありきたりな展開が予想されてしまう台詞を喋った秀吉が悪いのであって。
俺は悪くない、っていうか俺から誘ったわけじゃない。
ってことを全力でお伝えしたいので候。
「俺は構わんが」
「・・・ああもうそれで締めさせろよ!俺にも羞恥心とかプライドとかてんこ盛りなんだからよ!伊達家ってブランドを考えてみろってんだってのことですよ!」
「お、落ち着け政宗」
「・・・・・・次の授業ないなら、俺はサボる。寝る。」
「そうだな、・・・今回ばかりは見逃すしかないか。」
「当たり前だ馬鹿、あとファーストキス返せ。今すぐ。」
「・・・わかった」
「ん」
おいおいこんな政宗さんを、世界中の誰にも見せられないよ。
てか俺死ぬよ?舌噛んで死ぬよ?
「・・・どうしよう半兵衛、授業始まるのに出てけない・・・」
「仕方ないから、君が政宗君に殺されている隙に僕は逃げる」
「やだよ!」
見られてたりして☆
〆〆〆〆〆
ちょっと表示が変だったので再投稿しました(笑)
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