2025.04.21 Monday 09:37
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2010.10.18 Monday 01:49
薄く目を開けた先には、半兵衛の姿などもちろんない。
ああ我になど帰らずずっと夢現の中で死んでゆけばよかったと後悔してみたが、覚醒してしまってからではなにもかも遅い。せめてもう一度同じ夢をと願い目を閉じるも、次第に襲ってくる疼痛に邪魔をされ眠気が再び訪れる事はなかった。
明らかな二日酔いだ。
揺さぶられている訳でもなかろうにこうガンガンと視界が波打てば否応なく気持ち悪くなるというもの。
嘔吐感を堪えられずに半身起き上がり身を屈めると、ぴた、とその背に触れる手があった。
ほのかな花の香が鼻を擽り、不思議と気持ち悪さが遠退いて行く。
この花の香りはそうか、白梅(しらうめ)。
馴染みの花魁だと嗅覚が告げていた。
「慶ちゃんにしては珍しなぁ」
からからと嫌味なく笑うその仕草は、ささくれだった俺の気分をいくらか現世に引き戻してくれる。
白梅は飾らない人柄が人気を呼んでいる手練の花魁で、さらりさらりと口八丁手八丁で殿方を弄ぶのを楽しみにしている、掴み所のない女性。
だが、その様すら優雅かつ魅力的に相手方に捉えさせてしまう物腰は、もう才能としか言いようがない。
彼女にからかわれ、うまくあしらわれるのを楽しみに通う男は未だ後を絶たない。
現に自分もそうされたいがために通い続けていた時期があった。
「何年も遊場に顔出してくれへんかった慶ちゃんが」
昨日いきなり死にそうに酔っぱらって運ばれて来たから何事かと思ったと、白梅は毒なく笑う。
「……うん」
何年も確かに俺はこういう場に来なかった。
何度親しい仲間に誘われても、酒に酔っていても断り、きっぱりと遊郭遊びを止めたのは何も急に心変わりをしたからでも趣旨代えをしたからでもない。
仲間内からは男娼好きになったのかなんて囃されたが、そんな複雑な思考を持てるほど俺は賢くないし、理由なんてあまりにも単純すぎて泣けるほどに簡単なことで。
「好きな人、出来たんやろ?」
最奥を容赦なく突くような白梅の言葉に思わず涙が溢れた。
彼女の言葉は時として、なによりえげつない凶器となって人の芯を叩き折る。
それ故に人は彼女に依存するのだろう。恐ろしい話にも聞こえるが。
俺は、彼女に依存したことはなかった。
「いなくなったんやろ…?慶ちゃんがウチに被せて見てた彼の人は」
静かにゆっくりと心の臓を掴まれ、嗚咽と吐き気に襲われるがまま胸を掴み踞る。
彼女には全て露見していたのだ。
俺が彼女に依存しないのは、既に依存しかけている存在があったからで、彼女の元に通わなくなったのは半兵衛を本当に好きになってしまったのだと自覚したからだ。
知的な彼女の手の上であしらわれる事で、俺は、こういう性癖を持っている男なのだと知りたかったのだけれど。
結局、白梅にも、そういった扱いを受ける行為自体にも特別な感情など抱けなかった。
半兵衛だから嬉しい、半兵衛だから許せる、半兵衛だから愛しいのだと。
現実は己の都合のいいようにはいかない。
だって。
辛いだけの恋だと、初めからこれだけわかっているのに。
それしかないだなんて。
「死んだよ、そうだよ、はんべ、俺の、ひっ…く…知らないとこで、血吐いて苦しんで、知ってるやつに殺されて」
倒壊する崖から冷たい秋口の海に投げ出された半兵衛が最後まで想っていたのは、自らを追い詰めた小十郎や、まして薄情な存在であった俺なんかではない事は確か。
なんて凄惨な結末なのだろうと思う。
そりゃ、初めから報われない恋であることは自覚していたし、期待はしてもどこか諦めがあった。
それでも半兵衛に固執し続けたのは、一重に俺自身がそうしなければ生きていけない心になっていたからだった。
勢い余って絶縁した時、俺の胸中には怒りと憎しみしかなかったけれど、殆どを占めていたのはごく私的な悲しみで。
何故、こうなる前に相談してくれなかった、信用してくれなかったのかと。どうして誰も彼も、親友であった秀吉も、恋慕し続けた半兵衛すらも俺の事を頼って愛してくれないのだという絶望が全身を支配して止まなかった。
初恋の相手が死んだというのに、最終的に見えてきた本当の絶望は自ら信じられぬほどおぞましく、必死に首を振り見て見ぬふりをするしか術はない。
やがて自傷を繰り返し取り戻した日常は非常に味気なく、何もかもが灰色の景色に変わってしまっていた。
晴天である筈の空が、泥のような雲を浮かべ淀んだ水溜まりにしか見えなくなった。
大きな喪失と、大きな罪悪感を振り払うためにひたすら遊び歩き喧嘩に耽り、別の友情を築いたりもしたのだが、やはり、真の友情も恋慕も手にいれる事は出来ずに、やがて思い知る。
失ったものは計り知れず大切なものであった事、それを自らが捨ててしまった事。
それに気がつき取り戻そうとした時にはもう、なにもかもが遅かった。
〆〆〆〆〆〆〆
続きます。
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2010.10.17 Sunday 18:41
サイト更新しました!
一万ヒットありがとうの気持ちをこめて!慶半まんがとポケパロまんがを(笑)
次はいいかげん拍手を変えねばなりませんな…
あとお知らせに書いたんですが、小説は随時こちらにアップしてゆこうと思っています。
筆が遅いと言うか、話がめためたなので、下書きみたいな感覚でブログに書く→校正と添削と本書の上でサイトにあげる→しかし裏はそうもいかないのでサイトにあげる。
こんな手順(笑)
というかですね、書いてる途中でどんどん話が変わってゆくんですよ、当初の思惑からはかけはなれ…
気づいたらあれぇ!?慶半のつもりが他半じゃね!?
あれぇ!?短い話にするつもりが長々と書いてしまいには続いてるよ!?あれ…おかしいな…夜だったのにいつのまにこんなに明るく…
ということは日常茶飯事、雨後の筍。
そうそう、裏に佐半も追加しました☆
幸佐で慶半、ふたりは親友みたいなノリの、別にセ○レじゃあらしませんよ。
それでは是非(笑)
[0回]
2010.10.14 Thursday 15:49
「また前田のやつ赤点だって?」
ちょっと感心したようにそう呟いたのは、早々に弁当を食べ終え食後の一服を決め込もうとしている政宗であった。
「昔は俺が家庭教師をしてやっていたんだが、今はそういう訳にもいかぬからな」
政宗にとっては浅井(鬼)のいぬ間に・・・という気分であったのだが、そんな思惑も虚しく、火を着ける前にひょいと没収される。
いつの間に食べ終えたやら、お茶を片手に伸びる秀吉の手だ。
「いいじゃねえか一本くらいよ。」
「何を言っておるか。ここは学校でお前は未成年で、しかも俺は担任だぞ。」
「教育実習生なんだし、見て見ぬフリ有り有り!」
「そうだな・・・」
わざとらしく膨れる政宗の頭を押さえ軽く笑うと、おおダメ元で成功か!みたいな輝いた目に出会う。
わざわざ自分の目の前で吸おうとするのだから、このような展開は目に見えていた筈なのに。
「口寂しいのか、政宗」
「え」
「ならこれだな、飴をやろう。」
一瞬どきりとした政宗を知ってか知らずか、古風にも程があるぐるぐる巻きの飴を懐から取り出す秀吉。
黄色とピンクのそのぐるぐるを凝視しながら、政宗は唖然とするしかなかった。いまどきどこに売ってんのそれ。
「ここでその台詞で・・・飴ってお前・・・キャンディーってお前・・・」
思いっきりどっかの赤点野郎のイメージカラーをしたその飴を前田ごと叩き割りたい衝動に駆られたが、寸でのところで気力が足りなかった。
懐のコルトパイソンが火を噴くところだったぜ。
「どうした?」
優しく問いかけるその口調は、わかっていてやっているのか、それとも本当にわかっていないのか毎度判別がつかなくて困る。
これで色々と意地悪をされているのだとすれば、相当の役者だとは思うが、まあどちらであっても悪い気がしないと思えてしまうのが一番問題か。
「なんでもねーよ馬鹿猿」
「色が気に食わなかったか馬鹿竜?」
なんだか悔しくてどうでもいい悪態をつきながら受け取らざるを得なかった飴を齧ると、間髪居れずにオウム返されて溶けた汁を吹き出しかける。
危ないベタベタになるところだった。
「着色料の配色ぐらいでいちいち不機嫌になるほどガキじゃねえわぁ!」
「なんだなんだそんなに怒るな」
ああむかつく。
なんだその微笑ましいみたいな笑顔は、宥めるように頭を撫でるその手は。
むかつくむかつく、何が一番むかつくって、完全無欠のカリスマ的存在だった俺の調子をかき回すこいつの全てが憎らしい。
「口寂しかったんだろう?」
「お前はわかってない」
「そうか?」
「でもま、馬鹿と朴念児は死ななきゃ治らないって言うしなー」
「ほお、それなら俺はどっちだ。馬鹿か、朴念児か。」
元々子供用に作られているキャンディーなんてやすやす噛み砕けるもので、はじめっから舐めてなどいなかった。
ペロペロキャンディーとかなんとかいいながら、実際俺の口からはバリバリしか聞こえない。つまりあれだな、バリバリキャンディー。
あ、ありそう。
「・・・どっちもじゃねえの・・・」
正直、何が起こったのかわからなかったが、これから噛みしめて飲み込む予定の飴の破片があっさりと溶けてしまったのだけは理解できた。
それ以下は理解していいものなのかどうなのか。
秋だというのに妙に熱くてまともに思考が回らず、必死のさり気なさを装って顔を背ける。
どうしてこんなに至近距離に秀吉がいるのかなんて、そんなことはもう論議の段階を逸脱していて苛烈でしかない、間違えた瑣末でしかない。
「砂糖の味しかしないな」
「合成着色料に味なんてあるかよ、後付けペロペロって奴」
「政宗」
「・・・おう」
無理やり顔を正面に直されてしまえば、抵抗する気力などない。
身体に力は入らない、食べた後は眠くなるというが、きっとそれだろう。
だから今回の一件は、口寂しいのだろう?なんて、ありきたりな展開が予想されてしまう台詞を喋った秀吉が悪いのであって。
俺は悪くない、っていうか俺から誘ったわけじゃない。
ってことを全力でお伝えしたいので候。
「俺は構わんが」
「・・・ああもうそれで締めさせろよ!俺にも羞恥心とかプライドとかてんこ盛りなんだからよ!伊達家ってブランドを考えてみろってんだってのことですよ!」
「お、落ち着け政宗」
「・・・・・・次の授業ないなら、俺はサボる。寝る。」
「そうだな、・・・今回ばかりは見逃すしかないか。」
「当たり前だ馬鹿、あとファーストキス返せ。今すぐ。」
「・・・わかった」
「ん」
おいおいこんな政宗さんを、世界中の誰にも見せられないよ。
てか俺死ぬよ?舌噛んで死ぬよ?
「・・・どうしよう半兵衛、授業始まるのに出てけない・・・」
「仕方ないから、君が政宗君に殺されている隙に僕は逃げる」
「やだよ!」
見られてたりして☆
〆〆〆〆〆
ちょっと表示が変だったので再投稿しました(笑)
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2010.10.13 Wednesday 12:48
眠さのあまり頭が沸いていた昨日、Hello Good morning!
今月はなにかと疲れる…今日も仕事ですがなにか?温泉いきたいです。
どうでもいい話なんですが、政宗君の「おーわい」ってアレ、なんなんだろうなとずっと思ってたんですがね。
だって変じゃないっすか、よく聞いたら。
「~ですぞ政宗様!」
「おーわい、小十郎。」
「~でござるぞ独眼竜!」
「おーわい、勝手にしな。」
「お前の存在が気に食わない」
「おーわい…」
「ところで国と小十郎どっちが大切ですか?」
「ちょっと出かけてくるわ」
とかね、変じゃね!?
なんつーか…ダサくね!?おーわい!おーわい!
(あくまで例です)
それでナワは気づいたんだ、これ…もしかして…
「そーかい」
っつってんの!?
つかそういう意味なの!?
なんとなく調べたら、そういう意味でした。
流暢に言うとそう聞こえるみたい、ちなみにパーリィも正しい現地の発音らしいな。
流石は政宗様だぜ!
流行の最先端を行ってるぜ政宗様!
だけど羽織のデザインセンスは残念な政宗様が大好きです。
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2010.10.13 Wednesday 01:12
今日の仕事はおしまい、家の布団の中ですこんにちは。
さて、仕事終わり間近という時、唐突に慶次と半兵衛の話をひとつ思い付きまして。
いえ、もう持病なんですけどね。
では、今宵も夢のまた夢まで。
紫陽花【鬱慶半】
舞台は半兵衛と秀吉が死んだ後の世、徳川の時代が来ると思いきや、あまりに個性の強すぎる人外どもを統治することなど不可能であった。
殺そうとすれば返り討ちに逢い、毒を盛ろうとしても見抜かれ、太陽熱で焼こうとしても逆に人体発火で焼き殺される。
武器を狩ろうにも譲りやしねえしひとつ盗ってもまたひとつ、ふたつ盗ればまたふたつ、次から次から涌き出すオメガに徳川はすっかり困ってしまった。
自分の世なのに誰も言うことを聞きやしない。初めは戦をしない代わりに自由を尊重するという約束のもとに統一された国々だったが、今や世界に手を伸ばそうとする徳川にとって言うことを聞かない連中は少々問題だった。
国内で戦はしてほしくない…が、他国とは戦をしてもらわねば困る。それも自分を筆頭とし、従ってもらわねば。
時代はそんな、陰謀蠢き火種燻る、終わりの見えぬ戦国時代。
前田慶次は以前よりずっと平和になり戦もなくなった世をぶらぶらと生きていた。
思えば喪失だけの人生であった。
両親、初恋の人、旧友…そして今尚死を受け入れられずにいる旧友と、最後まで密かにしまいこんでいた想い人。
誰の亡骸も抱くことなく、その資格すら自分にはなかったのだと思い知る。
秀吉の首を家康が掲げるのを見た時、自分の身体の主軸が逆になるのを感じた。
気が付けば薄暗い寂れた神社の片隅で半日以上も吐き続けていたらしい、利に背負われ帰宅したらしいが何も覚えていなかった。
死ぬなんて考えたこともなかった。
…謙信のところに落ち着くつもりであったのだが、彼もまた体調を崩しており面会は憚られた、ついには彼の想う忍に頭まで下げられ「お前の来る場所ではない」と言われてしまった。
そりゃあ、そうだと、綺麗に整えられた土の道を歩く。石ひとつ落ちていない。
石がなければ人が躓いて転ぶこともないが、足の縺れる自分には、ただの平坦な土の上すらまるで沼を歩くようにしか進めぬらしい。
どろりと歪み溶け出す様は汚い血の滞りに似て、ああ自らの身体の中にも同じ色が流れているから、このように地に足がつかぬのだと笑ったところで倒れる。
道行く人はほとんどが知った顔ばかり。向こうも俺を知っていて、慶ちゃん慶ちゃんと血相を変えて駆けよってくるのが見える。
やめてくれ、構わないでくれ、どうせ消えてしまうのならば最初から縁などもたないでくれ。
「二日酔いで間違えて僕の寝室に来てそのまま寝たって言うのかい?」
泥酔すると本性が隠しにくくなる。
だから普段は深酒を控えているのだけれど(とはいえ多少の量では酔わないが)昨晩は致し方なかった、なにせ珍しく半兵衛が付き合ってくれたからである。
一番本性を隠さなければいけない相手だというのに酩酊してしまったのは、思いの外強い酒であったことと、それに気が付かないほど気分が高揚していた所為であることは確か。
秀吉とねねに呆れられながら、ぐらつく視界に、重い瞼を擦っていたのは覚えている。
「何も覚えてないんだね?」
「う、うん…何にも…」
ちょっとした嘘だった、本当は飛びかけた理性が、不可抗力なのだから膝に倒れてしまえと言うのを聞いている。
それから思ったよりも暖かく、最高の高さだった感触も。
彼に覆い被さるようにしている自分の真下で、半兵衛がため息をついた。
こんなに近くに寄ったことも、寄れる訳もない。
互いの息がかかる位置に彼は決して人を近づけないのだと、以前秀吉から聞いていた。
病気のせいだったということに気がついたのは本当にずっと後のことだったけれど。
その距離を、今だけ、この瞬間だけ、そして俺だけに許されている。
無償に抱き締めたい欲求に駆られた、抱き締めて口付けを交わしてしまいたい。
まだ告白も逢瀬もしていないけど半兵衛を手にいれるための好機は今しかない気がする。
そんなことを思っていたら、いつまでも退かない俺に業を煮やしたのか指先で頬をつねりあげて来た。
正直死ぬほど痛かった。
悲鳴をあげる俺に対して半兵衛は始終無言で、どこか俯いて憂いているようにも見える。
「…半兵衛?」
「さっさとどきたまえ、二日酔いなら寝ていて構わないから」
なぜそんな寂しそうな顔をするのだろう。
なんとなく、退かない訳にもいかなくなり身体をずらして隣に倒れこむと、彼の瞳がこちらを向いた。
相変わらず綺麗だなぁ…。
気が強そうで、意志のある目。だけど目の奥の表情はいつも優しさを称え、憂いと戸惑いで揺らいで見える。
いつかきっと、すべてと混ざりあう素敵な笑みや幸せも写してやろうと何度思ったことか。
「半兵衛…」
好きだと言いかけて、そこから先が続かなくなる。
そうだ、彼はもう死んだのだ。
〆〆〆〆〆〆〆〆〆〆〆
続く。
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